データとバスケ

バスケをデータから楽しむブログです。

書評「データで強くなる! バスケットボール最強の確率」(小谷究 、木村和希)

遂に日本でバスケのデータ分析に関する書籍が出版される

勝手ながら「遂に日本でもバスケットボールのデータ関連の書籍が出版されたか」と本書を手にして感慨にふけっておりました。本書はバスケットボール関連の書籍ではお馴染みの小谷究さんと、千葉ジェッツでアナリストとして活躍されています木村和希さんの共著となります。

木村さんに関しては以下の記事なんかに詳しいですし、私もTwitterではフォローさせて頂き、勉強させて頂いてます。

さて本書ですが、まずはっきり言ってしまうと上記の記事や木村さんのSNS等で日々情報を追っている方であるならば、目新しい情報や手法や考え方がたくさん載っているという事はないと思います。ただネットというのはどうしても情報を体系的に掴むのには向いていない所がありますし、このように一つの書籍として物理的にまとまるという事は非常に意義の大きい事だと思います。

指導者の、選手の、アナリストの、バスケファンの、ふと手が伸ばせる所にバスケデータ分析の書籍がある、それがこの先に与える影響はとてもポジティブなのではないでしょうか。

目新しい事はないと言いましたが、とは言え本書を読んで「面白いなぁ!」と思った事改めて感心した事も多かったので、3つに分けてご紹介したいと思います。

日本でトップクラスのヘッドコーチのアナリスト感、スタッツ感が知れる

一つ目ですが、序章として掲載されている大野篤史元千葉ジェッツHCによる『ヘッドコーチのアナリストやスタッツとの付き合い方』が非常に面白いです。正直言って、この序章だけでもお金を払う価値があると思ったくらいです。

バスケの世界においてもアナリストという存在は近年どんどんとその役割や重要性が認知されてきていると思いますが、では実際にその役割がチームの最終決定にどのような影響を及ぼしているのか、という事が意思決定者の視点から語られた情報はこれまであまりなかったように思います。それをBリーグのトップHCのひとりである大野さんが、アナリストとどのように働いているのか、アナリストに何を求めているのか、アナリストから出てくる数字をどのように意思決定の為に解釈、消化しているのかなどの観点から話しているのですから、面白くない訳はありません。

まずは手元にあるデータから始められる内容になっている

二つ目ですが、この書籍が「とりえあず手元にあるデータから始めてみよう」という作りになっていることです。これは三つ目のポイントにも関連する内容ですが、分析をする為のデータがどのようなチームにも潤沢に用意されている訳ではありません。それはプロチームとて例外ではないと思いますが、プロ未満のカテゴリーであれば尚更ではないかと思います。本書はいわゆる『オフィシャルスコア』を使った分析から話題が始められており、個人的には「まずは手元にあるデータを何とか有効活用するべし」というメッセージだと解釈し、とても好感を持ちました。近年では技術の進化により、ビデオの撮影も、それを使った映像のタグ付けも決して特別な事ではなくなりましたが、データ分析を始めるのであれば、そういう所に投資する前にまずは手元にあるものの有効活用から始めてみるべきだと個人的には思います。

Bリーグトップクラスの分析の仕事が可視化されて、今後のデータ分析への投資が促進される事が想像できる

三つ目ですが、それは色々な角度からこの書籍がバスケ界のスタンダードを押し上げるだろうという事が想像できることです。冒頭の大野さんの章を読めば、若きコーチや、コーチを目指す人材たちが刺激されるのは間違いないと思います。自分のコーチとしてのスタッツとの付き合い方は正しいのか、そう問い直す方もいることでしょう。

またPart 3『アドバンススタッツから読み取れること』あたりからは木村さんが日々千葉ジェッツにて着目している指標や値が説明されていますが、これらの内のいくつかは千葉ジェッツというチームに木村さんという人材がいたから有効活用されているという点は無視できないと私は考えます。例えばデータ分析をする為にはデータの取得が必要な訳ですが、私が知っている限り(そして想像し得る限り)、まだまだBリーグ内ではこの「データの取得」に関する敷居が残念ながら高く*1、たまたまその敷居を超える為のエンジニアリングに投資できる組織であるとか、たまたまアナリストがそういうスキルセットを有していたとか、そういう事でもない限りはBリーグのチームであってもこの書籍で説明されている内容まではなかなか到達できていないだろうというのが私の見解です。つまり、この書籍の内容で、この分野のリーグトップクラスの仕事を垣間見ることが出来ると考えています。そしてこうして可視化されてしまったことで、否応なく自チームとの差について考えざるを得なくなるだろうと予想しています。

そうして本書をきっかけに分析について考えるヘッドコーチ、GM、オーナー、社長、スタッフ、選手、そしてブースターが更に多くなり、結果としてこのエリアへの新たな投資に繋がっていくのではないでしょうか。長いシーズンを戦っていく上で選手やコーチ以外の力が重要になってくるのは当然の事ですが、データ分析の相対的な重要性に光が当たる、そんなきっかけになる書籍なのではないかと思います。

まとめ

Bリーグファンなのに、まだ『木村本』持ってないの?

*1:これはBリーグさんが、もっとみんなが簡単にデータを取得できるように頑張らなければならない部分でもあります。