データとバスケ

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書評「NBAバスケ超分析 語りたくなる50の新常識」(佐々木クリス)

佐々木クリスさんはNBA解説者、もしくはNBAアナリストという肩書でお仕事をされていると思いますが、常々私の属する業界の言葉を使うとすれば『NBAエバンジェリスト』と呼ばれるべきだなと思っています。『ソフトウェアを開発、運用する為のソフトウェア』を技術者さんに対して商売をしている企業群の中ではエバンジェリストさん達の役割は大きく、彼ら彼女らは営業であり、自らも技術者であり、多くの場合に同じ技術を使う技術者コミュニティーのリーダー、インフルエンサーでもあるという多面的な役割を担いますが、これはまさに佐々木クリスさんが日本NBAファンに対して担っている役割だと思います。

本書『NBAバスケ超分析 語りたくなる50の新常識」はそんなNBAエバンジェリスト佐々木クリスがNBAというリーグの面白さを更なる多くのポテンシャルファンに届けるべく、本人が培ってきたバスケットボールという競技を観る技術を惜しみなく提供し、我々バスケファンひとりひとりをNBAエバンジェリストに変えてやろうという野心作だと感じました。この書籍を読む前と後ではコーナースリーが、オフェンスリバウンドが、ピックアンドロールのディフェンスが、全て違うものに見えるようになっていることでしょうし、その面白さを語りたくなる衝動に駆られているに違いありません。

以下には内容について個人的な感想をいくつか。

私はNBAに限らず国内外の色々なゲームをそれなりに観ているつもりですが、NBAを観ていていると、私の好きなハードショー、ブリッツ、オールコートプレスなど積極的に仕掛けるディフェンスが少ないという感想はずっとあって、そこに物足りなさを感じることもあります。きっと「デメリットがメリットを上回ると判断されているのだろう」とぼんやりと想像はしていたのですが、本書のNo. 17『NBAではリターンよりリスクが大きいハードショー』で数字と共に解説されており、すっきりすることができました。

次はNo. 31.の『すべてを守れる究極のオールラウンダー! 目指せ万能ナイフ』についです。万能ナイフ(英語だとSwiss Army Knife)という言葉は、しばしばソフトウェアの世界では『利用の用途が定められていない悪いデザイン』を示すネガティブなメタファーとして用いられます。私はアメリカは個人的にはそういうアメフト選手的世界観というか、スペシャリストが分業して働く世界観を好む傾向があると感じています。そして本書でも解説されているように、ひと昔前のNBAはその世界観の中にあったと思います。この『万能ナイフ』という言葉がここでポジティブに使われていることこそが、如何に現代のバスケットボールにおいてオールラウンドの活躍ができる選手が求められているのかという象徴だと感じました。

最後に私のブログではたま取り上げる話題ですが、是非Bリーグの方には本書を手にとって頂き、Bリーグについて同様の本を書いてもらうためにはどのような投資をしていくべきなのか、考えるための一つの材料にして頂きたいと思いました。もちろん一夜にしてNBAのようなデータ環境は整備できませんが、一歩ずつであれば必ず近づいていけるはずです。以前の記事でも書いたように、データ環境の拡充はエコシステムの拡大に好影響を与えるはずです。本書が良い例です。NBAがデータに投資していなければデータを駆使するNBAエバンジェリスト佐々木クリスは生まれていないと思いますし、本書も執筆されていないと思います。未来を見据える意味でも是非とも目を通して頂ければ。