データとバスケ

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書評「バスケットボールの動き向上トレーニング」(佐藤晃一、鈴木良和)

恐縮ながらベースボール・マガジン社様よりご献本頂きました。ありがとうございます。

私がバスケットボールをプレーしていた中高生の頃は、まだ『うさぎ跳び』に代表される様なメニューや、「筋トレは毎日やった方がいい」といったような非科学的、つまり効果が科学的に検証されていないような身体作りに関する通説が、ようやく見直され始めていた頃だったと思います。ただ残念ながらインターネットが一般的になる前だったので、それが普く選手や指導者に浸透するまでには随分と時間を要したと思います。

そういった時代を鑑みながら本書のような書籍を眺めてみると、大げさではありますが人類の進化を感じずにはいられません。年寄りの決まり文句を言ってしまいますが、そういう意味では現代の選手達は知識的には非常に恵まれた環境にいると思います。もちろんそれがあったからといって誰もが名選手になれる訳ではありませんが、間違ったトレーニングの下に時間を無駄にしてしまったり、最悪の場合は選手としての寿命を短くしてしまう事もあります。そういった事が防げるだけでも、バスケットボールという競技に対するこうした書籍の役割は大きいと思います。

読み始めていきなり関心したのが、Part 1『スキルとエクササイズの関係』がまず『ストップ』、つまり止まる動きの解説から始まることです。上記の話に戻ってしまうかもしれませんが、今でこそバスケットボールにおいて止まる動きの重要性は多く語られ、例えばNBAでプレーするルカ・ドンチッチ、Bリーグでプレーする富樫勇樹の止まる動作の素晴らしさが取り上げたりもしますが、私のプレーする時代にはそのような話を聞いたことは一度もありませんでした。

本書でも指摘されているように、正しく止まる技術の向上なしに良いプレーは中々望めません。それは選手の役割を問わず、ショットでもパスでもリバウンドでも、様々な動きを支える根本的な技術になってきます。その土台となる技術を冒頭でしっかりと説明する本書のアプローチは素晴らしいと思います。

Part 2『体幹エクササイズ』に関しても、やはり「昔は体幹なんて言葉はなかったなあ」という隔世の感に浸ってしまいました。今でこそ当たり前の概念で、バスケなどプレーしない中年の私であってもプランクで体幹を鍛えたりしているくらいですが、体幹の重要性を現役時代からしっかりと意識しながら練習、試合に臨めるだけで大きな違いがあると思います。ちなみにこのPart 2とPart 3の『基本のストレッチ』は、バスケうんぬんに関係なく、健康志向で身体を鍛えるすべての人に十分関連する内容ですので、バスケをプレーしない方でも目を通す価値があると思います。

Part 4の『基本のエクササイズ』が本書の肝となる、実際にバスケットボールの動きの向上に繋がるエクササイズについて解説された章です。どのエクササイズがバスケットボールの動きの何に繋がるのか、なぜそれが効果的なのか、それを意識しながら取り組めるように解説されています。解説はすべて写真付きなので、視覚的も理解できるようになっています。例えば片足スクワットのメニューであれば、解説にあるように『怪我は片足だけ床についているときに起こる』という事を意識して行うのか、何も考えず行うのかで、その効果には大きな違いが出てくることでしょう。

バスケットボールに限らずスポーツ選手であれば、自分の身体の動きに過敏なほどに意識的になる必要があると思いますが、まずはその前提として、『どんなエクササイズをするのか?』というWhatだけではなく、『なぜそれが必要なのか?』というWhyに対する知識を、本書のような解説書で仕入れてみるとよいのではないかと思います。