データとバスケ

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書評「バスケットボール戦術学 《1》 オフボールスクリーンをひも解く」(小谷 究, 前田 浩行)

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恐縮ながら生まれて初めてご献本いただいてしまいました。昔からブロガーの人が献本された書籍を紹介しているのを見たりしていて「そんな世界がこの世にあるものなんだな」と思ったりしていたのですが、まさか自分が献本いただく日が来るとは。これからはプロブロガーを名乗りたいと思います(笑)

冗談はさておき、こちらの書籍は流通経済大学スポーツ健康科学部の准教授であります小谷究さんと、現在はバスケ男子日本代表のテクニカルスタッフとして活躍されている前田浩行さんによって著されたバスケットボールの戦術解説書です。日本バスケの情報を追っている方であれば、少なくても何処かでお二人の名前を目にされた方は多いと思います。

私は小谷さんが佐々木クリスさんと著された書籍を以前に読ませて頂きましたし、ツイッターのアカウントもフォローさせて頂いておりました。

またこの書籍の出版元であるベースボール・マガジン社のピックアンドロール解説書も読ませて頂いたことがあります。ちなみにこちらは元琉球ゴールデンキングスHC、現宇都宮ブレックスACの佐々宣夫さんの著書です。

こちらのバスケットボール戦術学でも佐々さんの著書同様、3Dによる分かり易い図解が使われておりますが、どちらかというと佐々さんの著書よりは文章での説明を中心に据えている印象を持ちました。

ハッカー(オフェンス)とセキュリティ担当者(ディフェンス)の終わりなき戦い

さて、ソフトウェアエンジニアならではの感想になるかもしれませんが、私がこの書籍のを一読して持った感想は「なんかオフェンスとディフェンスの攻防って、ハッカーとセキュリティ担当者の果てしない攻防みたいだな」というものです(ちなみにソフトウェアの世界では必ずしもハッカーという言葉を悪者の意味で使わないのですが、ここではそのような意味で使っております。)

ハッカーが何か悪い事をしたとします。すると、セキュリティ担当者はそれをされないように更にセキュリティを強化します。そうするとまたハッカーが新しい手を考えます。そしてセキュリティ担当者も更に新しい策を打ちます。こうして世の中のセキュリティに関する技術力は向上していきます。大学でコンピューターサイエンスを学んでいた頃、ひとりの教授が「優秀な守り手になりたいのであれば、攻める側にもなれる技術力と知識が必要」と話していたのを思い出します。

バスケットボールにおけるオフェンスとディフェンスの進化も同様の道を辿っているはずで、本書ではそれがページの流れと共に説明されています。例えばこんな感じです。

オフェンス側はインサイド選手2人を使ってカーテンスクリーンを作り、シューターにワイドオープンのスリーを打たせようとする

ならばシューターのディフェンスはスクリーンとシューターの間に割って入り、シューターをノーマークにさせない

ならばシューターは裏をかいて、スクリーンを使うと見せかけて逆方向に動き、ゴール下でノーマークになる

ならばシューターのディフェンスはシューターを後ろから追いかけ、ノーマークの瞬間を最小限に抑えつつも裏をかかれないようにする

ならばシューターはボールをもらった後にシュートにいかず、スクリーンを活かしてゴール下にドリブルでアタックする

ならばスクリーナーのディフェンスのひとりが一時的にドリブルでの侵入を防ぐ役割をする

ならばオフェンスは(永遠に続く...

そっちがそう来るならこっちはこうする。こっちがこう出ればあっちはああする。そんな対策のし合いのプロセスをひたすら繰り返して、バスケットボールの戦術は日々進化しているんだと思います。この書籍ではそうして磨き上げられてきた戦略の進化を追体験することが可能になっており、そこが一番のセールスポイントであると個人的には思いました。プレイヤーやコーチはもちろんの事、ただ観戦を楽しみたい私のような1ファンにも嬉しい内容だと思います。

ただひとつだけ追記しておきたいのは、ここで説明されている戦術や戦略を暗記してそして練習して、それを実際にそのまま試合で使ってみて下さいというのは著者たちのメッセージではないと思います。もちろんそれは重要な第一ステップだとは思いますが、著者たちの願いはここで説明されている知識をもとに、ひとりひとりのプレイヤーやコーチが考え、試行錯誤し、自分たちにとって最適なものを掴む、そういう過程を踏んでくれることだと思います。

今後に向けて

生まれて初めてご献本頂いたんだからベタ褒めするしかないやろー、と思ってはみたものの、それだとあんまり面白くないと思ったのでいくつか思いついたことを書いてみたいと思います(笑)

これは読者に考えさせる為に意図的にやっていないのかもしれませんが、各箇所で何がポイントなのか、冒頭や末尾に箇条書きのまとめでもあると頭に入りやすいかと思いました。もしくはポイントとなる文章を太字にするだけでもいいかもしれません。いずれにせよ記憶への定着の向上、また書籍の検索性の向上の観点からも、まとめがあると助けになるのではと思います。

また書籍を超えた話題にはなってしまいますが、やはりこのように3Dによる絵図を活用するのであれば、動画で観たらもっと分かり易いなと思ってしまったのは正直なところです。動画となると制作のコストも上がりますし、一方でマネタイズが難しくなるなどの問題もありますが、特に若い世代においては動画コンテンツの方が好まれるのではないかと思いました。

以上になります。ご献本まことにありがとうございました。このような書籍が今後とも発売され、プレイヤーやコーチの手に渡り、日本のバスケットボールがさらに前進することを願います。

バスケットボール戦術学 《1》 オフボールスクリーンをひも解く

バスケットボール戦術学 《1》 オフボールスクリーンをひも解く