データとバスケ

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書評「稼ぐがすべて」(葦原一正)

稼ぐがすべて   Bリーグこそ最強のビジネスモデルである

稼ぐがすべて Bリーグこそ最強のビジネスモデルである

Bリーグの事務局長である葦原一正さんが書かれた「稼ぐがすべて」を読みました。葦原さんはTwitterでもBリーグに関する面白い情報をいつも発信されており楽しくフォローさせて頂いていたので、本書も発売を知ってすぐ購入に決意し、Amazonにて予約購入しました。

色々なところで既に書評も出ているようなので、私はソフトウェアエンジニア兼データサイエンティストらしい私なりのコメントをいくつかしてみたいと思います。

プラットフォームをゼロから作れる喜び

まず第1にBリーグのデジタルマーケティングを支えるシステムについてです。本書では観客に関するデータを、各クラブではなくリーグが管理するといったBリーグCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)システム構築の方針に述べられています。

葦原さんがバスケットボールにチャレンジした大きな理由の一つとして、既存のしがらみに囚われず、事業戦略を含めてゼロからスタートできるチャンスだったことを挙げられています。私の個人的な予想ですが、ここにはソフトウェアシステムの構築に関する内容もかなり含まれていると思います。

長くソフトウェアの業界に身を置いていれば誰しも経験することですが、長生きするソフトウェアシステムというのは、人間関係的にも技術的にもありとあらゆるしがらみに囲まれることになります。

よって例えばデータを一元管理したい、速度を上げたい、信頼性を上げたい、といった要望が出てきても、根本的な対策は出来ないことがほとんどです。そして小手先の変更を繰り返していくうちに、スパゲッティとか温泉旅館とか揶揄されるようなシステムになっていきます。

エンジニアにとってあるシステムをゼロから構築し直すというのは、ある意味ドリームプランなのです。「ゼロから作り直せたら絶対こうするのにな!」というリストが頭の中に山程あるのです。しかしそれを実行に移すチャンスというのは滅多にありません。

このBリーグのシステムはおそらくクラウド上かなんかにゼロから作り上げたのだと思いますが、そのようなシステムをゼロから構築する機会を得たということは、本当に現場の担当者にとっては素晴らしい機会だったのではないかと思います。

データドリブンとはバランス感覚のこと

データに踊らされない、という箇所は非常に共感し大いに頷きました。私はデータの仕事をしているのですが、基本的には仮説や信念が大事だという葦原さんのコメントに同意してます。

データドリブンで意思決定、みたいなことが言われて久しいですけども、ときどき「自分が何も考えなくてもデータが行く先を照らしてくれる」と考えているのではないかと思う人に出会うことがあります。

あくまでデータが示してくれるのは、例えばある事象が起きそうな確率であったり、ただの値です。最終的にそれをどう解釈し、どのような実行に移すかの決断は人間がやらないといけない領域です。それを分かっていない人は意外に多いと思ってます。

最終的にデータドリブンというのは、分析をする側が葦原さんのいうように仮説なり信念なりを持ち、それとデータ分析の結果のバランスを取って行動することをいうのだと思います。だから自分の仮説に拘り過ぎてデータを無視することも、自分に信念がなくデータが方向性を決めてくれると盲信することも、同じようにデータドリブンではないのだと思います。

セカンダリーマーケットの話が面白い

個人的に1番面白いと思ったのは130ページにあったセカンダリーマーケットの話です。セカンダリーマーケットというのは、簡単に言えば転売所で、自分が買ったチケットをさらに他の人に売るための場所です。

NBAではこの用途のための専用の公式プラットフォームがあるそうで、 Bリーグでも導入を検討しているとのこと。このセカンダリーマーケットを持つと大変素晴らしいのが、セカンダリーで購入する顧客のデータを手に入れることができることです。「潜在顧客」の可能性が高いとすれば、より価値があるかもしれません。

この辺はBリーグで自前で作ってもいいでしょうし、もしかしたらメルカリさんなんかと提携してやるという可能性もあるかなと個人的には思いました。色々と可能性がある分野だと思います。

最近ではスポーツチケットの分野にブロックチェーンなどのテクノロジーを導入するという話を目にすることも多いです。大抵いわゆるブロックチェーン、もしくは分散型台帳である必然性がない話だったりもするのですが、いずれにせよ誰がどんなチケットを所有していて、誰と誰がそのチケットの売買をしたのかなど、知ることができればマーケティング的にはさらなる大きなインサイトが得られる可能性があると思います。

まとめ

まだまだ旅は始まったばかりのBリーグですが、何となくこれまでを振り返る為にも、これからのBリーグの発展を考える為にも、スポーツビジネスについて学ぶ為にも、おすすめの1冊だと思います。

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